静かなる銀河系の巨大ジェットを観測(2012年4月)

2012年4月度のビデオメッセージ

皆さん、こんにちは。今月のメッセージをお伝えしたいと思います。

先月、3月は天文学会、あるいは物理学会など、学会のシーズンでした。私達も2つの学会で、全部で20個あまり最新の研究成果を講演として発表いたしました。そのうちの1つのテーマについて、きょうはお話ししたいと思います。

それは、銀河系の中心部には大変巨大なブラックホールがあるのですが、そのブラックホールに関係する話題です。結論からいいますと、我々は初めてブラックホールから噴き出ている巨大なジェットを捉えることに成功しました。我々自身、大変驚き、そしてこれから世界と驚きを共有していくことになるであろう発見がなされたわけです。

ブラックホールが物を吸い込むことはご存じだと思いますが、同時にジェットを吹き出す性質があります。なぜ吸い込むことと吹き出すことが共存するのか、同時に起きるのかということは、直感的には理解しにくいかもしれません。それを理解する鍵は、ブラックホールは大変小さく、その周辺のかなり広い空間では非常に活動的な現象、あるいはエネルギーの放出が起きていて、これは物質が落っこちる途中でたくさんのエネルギーを出し、そのエネルギーが源になってジェットを駆動する、加速するのですが、そのスケールの違いを頭に入れていただくと、それほど難しくはないのではないかという気がいたします。

私達の銀河系の中心のブラックホールは、いままでの観測から、だいたい太陽の400万倍という非常に巨大な質量を持つことがわかっていましたが、それでもブラックホールは非常に小さな天体ですので、そのサイズをみることは、実はほとんど不可能に近いのです。ただ、その周りの、どんどん吸い込まれて落っこちていくガスには、現実には真っ直ぐ落ちるわけではなくて、くるくるとブラックホールの周りを周回しながら、ゆっくりと落ちていく性質があります。この周回する運動が磁力線とカップルして磁力線をひねり、ガスが外向きに流れ出していくという動きを作り出します。これは銀河系以外の銀河の中心核については割と知られた現象でした。

今回の発見の何がサプライズかといいますと、私達の銀河系のブラックホールは非常に静かで、ほとんど活動していない、あるいは電磁波もそれほど出していませんので、この数十年間、「なぜ私達の銀河系だけがこれほど静かなのだろうか?」ということは、天文学者にとって大きな謎でした。それに対して、私達の銀河系の中心核にも実はジェットがあり、いままで知られていなかった、このような活動をしているのだということを、初めて示せたことは大変大きいと思います。

おそらく物が降り積もる仕方には、時間的な変動がかなりありそうです。非常に活発にジェットを出す時期、あるいはほとんど物が降り積もらずに全く不活発な時期があり、それを時間的にいろいろ織り交ぜて、中心部は進化していくのだろうと我々は想像しています。

今回、発見されたジェットは、だいたい数百万年前からごく最近まで続いている、ブラックホールの周辺の活動を示しています。長さはだいたい片側400光年、500光年というブラックホールから突き出た巨大なジェットが観測されました。

このような現象の理解には、例えば赤外線、あるいは私達の行っている電波の観測を組み合わせるとともに、磁場を含めた理論の役割が非常に大きいのです。私達も日本国内にとどまらず、いろいろな国の観測者、理論研究者と連携して、このような現象の理解を進めています。

幸い、3月の半ば、学会の発表の前日、あるいは数日前に、いくつかの新聞で全国的にこのニュースを取り上げていただきました。相当、多くの日本の方々にも注目していただけたのではないかと考えています。

また新しい天文学のページが開かれたということをお伝えして、きょうのメッセージとさせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。

【キーワード】 研究・観測