繰り返される地殻変動(2011年4月)
2011年4月度のビデオメッセージ
皆さん、こんにちは。今月のメッセージをお伝えしたいと思います。
この地球について、否応なしにもう一度考え直さなくてはいけない大きな事態、事件が起こってしまいました。いろいろな報道、あるいはいろいろな方々のご意見を聞いておりますと、一つ私にとって意外なことがわかってまいりました。きょうはそれについてお話ししようと思います。
地震も含めて非常に大きな災害について、それに対する備えをしようと人間は考えます。ところが、相手は自然であり、地球という宇宙の一部であります。大変理解しにくい議論の一つは、例えば1000年というオーダーで、過去にどのような地震が起きたか、あるいは津波があったかということはよく議論されているのですが、それが2000年、3000年、あるいは5000年というタイムスケールになると、過去の経験、歴史ではほとんど真面目に考えられていないということに気が付きました。これは地球の40数億年に及ぶ歴史を考えてみますと、実に片手落ちなのです。
地球という星は、45、46億年前に、微惑星という小惑星のような小さな天体が、数十個衝突してできました。それ以降、地球は自身の重力のおかげで、あるいは影響で、少しずつですが、どんどん縮んで、濃くなっています。これは重力という非常に普遍的な、質量がある限り、必ず働く力のなせる技です。ですから、地球は数十億年のタイムスケールで、より小さく縮むことによって、エネルギー的にはより安定な状態に移っていこうということを、いわば宇宙を貫く物理法則の表れとして行ってきているのです。
そのような観点に立つと、過去の2000年も5000年も、あるいは1万年から1億年も、地球における基本的な物理状態には何の変化もありませんから、災害に対する備え、対策を議論するときに2000年、あるいは5000年の過去を考慮しない理由はどこにもないのです。ただ、2000年を超えますと、当時、住んでいた人たちの数が少なく、どのような災害があったのか、流石に歴史には何も残っていませんが、地球は10億年前と同じように、現時点でも地殻変動を繰り返しながら、より安定な状態を目指して着実に進化を続けています。そのような地球の性質を、私達はもっときちんと理解しておかなくてはいけません。そうすれば、「2000年前は過去のことだから、もう考えなくてもいい」というような議論は出てこないはずだと思います。
「自然災害は忘れた頃にやってくる」というのは、寺田寅彦の非常に有名な指摘ですけれども、人間も含めた生命のタイムスケールは、わずか10年から100年です。それに対して地球は、数千年はおろか数十億年というタイムスケールで営々と進化しています。このことを人間の自然界に対する基本的な認識として、もう一度思い起こすことが必要ではないかと考えております。
ありがとうございました。