巨大星の誕生を発見(2011年9月)
2011年9月度のビデオメッセージ
皆さん、こんにちは。今月のメッセージをお伝えしたいと思います。
宇宙の進化を考えるときには、太陽のような星ももちろん大事なのですけれども、実は宇宙には太陽の10倍、20倍、30倍の大変重たい星があります。そのような重たい星は、数は少ないのですが、太陽に比べると強烈で膨大なエネルギーを周囲に出し、この質量の大きな星の誕生、そしてそのいろいろなアクションが、星の集団である銀河系、あるいはいろいろな銀河の進化を大きく決定付けます。そのような意味で、重たい星、大きな星の形成、誕生を理解することは、天文学の非常に重要な課題であります。
最近、私達の研究グループの研究から、非常に新しい研究成果が出てきました。雲と雲の衝突の結果として、大質量星、重たい星の誕生の現場ができているということを、非常に明確に発見することができました。
これは、いて座の方向にある、皆さんもイメージをみると「ああ、この星雲か」とすぐに思われるであろう、大変有名な星雲です。ちょうど黒い筋で3つ、4つに分かれているようにみえるので、3つにちぎれた星雲という意味の、「三裂星雲」という名前が付いています。この方向を、我々の「NANTEN2」望遠鏡によって詳しく観測しました。
その結果を分析したところ、その方向には2つのガス雲が存在しており、その2つのガス雲がちょうど衝突している交点で、太陽の20倍以上の重さの大変巨大な星が誕生していることがわかりました。実は、雲と雲の衝突によってガスは非常に強烈に短時間で圧縮されますが、太陽の数十倍の重さの巨大な星は、そのように圧縮された濃いガスの中心で生まれることが、初めてみえてきました。そのような研究成果です。
しかも非常に大事なことは、従来、そのように巨大な星は、太陽の10万倍、あるいは100万倍という極めて大きなガス雲でしか生まれないといわれてきましたが、今回、衝突していることがわかった2個の雲の重さは、それぞれ太陽のわずか1000倍ぐらいだったということです。それぐらいの小さな雲でも、激しく衝突することによって非常に巨大な星を生み出し得ることがわかってまいりました。
このような、いわば宇宙における、銀河系における「事件」は、過去百数十億年の銀河の進化のなかで何度となく起きてきたはずで、それが銀河の進化を大きく決定付けてきました。そのような意味で、今回は100億年にわたる宇宙の進化を理解するうえで非常に重要な結果を、我々の手で明らかにすることができたと考えています。
そのような重たい星が生み出した重たい元素、例えば鉄やカルシウムは、40数億年前に太陽系に取り込まれ、それが私達の命を作るもとにもなりました。いまも新しい宇宙の1ページが開かれつつあるのだということをお伝えして、今月のメッセージに代えたいと思います。
ありがとうございました。