ボブ・ウィルソン氏の発見(2010年7月)
2010年7月度のビデオメッセージ
皆さん、こんにちは。今月のメッセージをお伝えしたいと思います。
6月の初めに、中国の北京である学会があり、そこに呼ばれて講演をしに行ってまいりました。私は20年ぐらい前には、ずいぶん頻繁に北京に行っていたのですが、久しぶりにまた北京に戻ってみたというところです。この会の目的は、1970年に宇宙で一酸化炭素(CO)という分子が発見されてからちょうど40年目ということで、それを記念する目的で、北京大学で開かれました。中国以外の研究者が約10名ほど呼ばれ、それプラス、約90名の中国、あるいは台湾の方々が参加された研究会でした。
この研究会の一番の主役は、通称、“ボブ・ウィルソン(Robert Woodrow Wilson)”と呼ばれているアメリカの70代の研究者です。Wilsonさんは、実はある別の発見で非常によく知られた方で、それは何かといいますと、1965年に(Arno)Penzias、Wilsonの2人が宇宙背景放射というビッグバンの非常に強い証拠である電波をみつけていますが、このWilsonが、ボブ・ウィルソン氏なのです。1965年にWilsonさんがPenziasさんとともに宇宙背景放射をみつけ、これで宇宙のビッグバンという考え方が非常に強く立証されました。1978年、彼らはこの発見でノーベル賞をもらっています。
そして、意外と知られていないのですが、その5年後の1970年に、一見、地味なのですが、一酸化炭素という分子を宇宙空間にみつけたのです。これがその後の、宇宙空間の分子の雲を「分子雲」と呼んでいますが、分子雲の非常に爆発的な発見、そして観測的な研究につながっていきました。この研究の意味は、結局、太陽のようなお星様は必ず分子雲から生まれるのです。分子雲を経ないで生まれる星は一切ありません。必ず分子雲からできますが、これを調べる最も有効な手立てがCOの観測なのです。波長が2.6mmぐらいの電波を出しているのですが、Wilsonさん達の発見が、いわば星の起源についても非常に大きな観測手段を与えてくれて、その後の宇宙研究を大きく切りひらくことになりました。
Wilsonさんは2つの講演をしていました。1つは宇宙背景放射の発見に関して、最近のビッグバン宇宙論の発展も含めて、大変わかりやすいお話をしてくれました。また、研究会では、どのようないきさつでCOの電波をみつけることになったのか、いかに最初はいろいろな装置が不備で、あるいは不具合で、いろいろな機器を直しながら何とか観測にこぎつけたか、そして最初の宇宙からのCOの信号をみせながら、そのときの感激を伝えてくれました。
私が大学院に入りましたのは、それから4年後の1974年です。最初は理論天文学をやろうかといろいろ考えていたのですが、そのCOの発見、そして分子雲の発見を聞いて、非常に新しい分野で、挑戦してみる値打ちが十分あるのではないかと思いました。それをきっかけにして、現在、私が行っている電波による星の誕生、あるいは分子ガス雲の研究を、この30年にわたって非常に楽しく切りひらいてくることができました。
実は、Wilsonさんは1980年代に名古屋に1週間ほど来られて、ふつつかながら私が、観光案内も含めて、いろいろとご案内しました。大変気さくな方です。研究会等でお会いすると、昔のお話もいろいろとするのですけれども、「また近いうちにぜひ名古屋にも来てほしい」という話をしてお別れいたしました。
以上で今月のメッセージとさせていただきます。ありがとうございました。