観測衛星「プランク」(2010年11月)
2010年11月度のビデオメッセージ
皆さん、こんにちは。今月のメッセージをお伝えしたいと思います。
宇宙についていろいろ講演する機会が多いのですけれども、必ずといっていいほど、まず137億年前のビッグバンのお話をすることにしています。ビッグバンは大変壮大な宇宙の始まりのストーリーなのですけれども、観測による非常に強い証拠が3つほどあります。
その3つのうちの1つが、「宇宙背景放射」と呼ばれている電磁波です。一番強いところの波長は、1mm程度のかなり短い波長の電波が宇宙の130億光年のかなたから飛んできています。現在も太陽系、そして地球に宇宙背景放射は間断なく降り注いでいます。この宇宙背景放射を観測することによって、7、8年前に宇宙の年齢が137億年であること、宇宙がとても整った幾何学に従っていること、またダークエネルギー、ダークマターの割合など、いろいろなことがわかってきました。それからまだ10年も経っていません。
2009年に打ち上げられた「プランク」という観測衛星があります。これはヨーロッパが共同して上げたもので、私達のグループもこのプランクの、コンソーシアムと呼ばれていますが、共同研究の一員に加わっています。我々は「なんてん」望遠鏡を使って星が誕生する分子雲の観測をしていますが、いったいなぜ我々のグループがこの宇宙背景放射を観測するプランク衛星の仲間入りをしているのかというと、実は深い理由があります。
宇宙背景放射は、確かに137億光年の非常に遠くからくるのですが、それを観測する私達の目と宇宙の果てとの間には、実はいろいろなものが挟まっています。そのなかで最も強烈に電磁波を出す存在が、実は我々が分子雲として観測している、太陽系を取り巻く、そして銀河系にくっついている星間物質なのです。近年、このような星間物質が宇宙背景放射の手前の放射の成分として非常に重要で、無視できない存在であるということが、次第に明らかになってきました。
つまり、非常に精密に宇宙のかなた、一番遠くから来る電磁波の非常に詳しい、そして正確な分析をしようとすると、私達自身の銀河系の星間物質、すぐ近くの物質を詳しく理解しないと遠くがわからないのです。これはここ1、2年、私達の予備的な解析によって非常にはっきりしてきました。
研究は、いろいろなテーマを持って研究者が行っていますが、常に最も広い視野を持って研究計画を考えていくことが非常に重要だと思います。自分の住んでいる蛸壺に入っているだけでは新しい世界はひらけないのです。我々はいま、特にここ数カ月、果敢に宇宙背景放射の精密測定に挑み始めています。そのために「NANTEN2」を使った新しい分子雲の掃天観測計画を進めつつあります。3年、あるいは4年後に、皆さんにその成果をお伝えできるのではないかと考えております。
どうもありがとうございました。