ガンマ線天文学と電波天文学(2008年7月)
2008年7月度のビデオメッセージ
皆さん、こんにちは。今月のメッセージをお伝えしたいと思います。
今月は宇宙を話題にしようと思います。
宇宙の研究は、いろいろな新しいエネルギーの電磁波をみることによって、この30年、大変大きく進歩してきました。いままでにも何回かそのようなお話をしてきたと思いますけれども、特に現在、私が注目している研究について少しお話ししたいと思います。
電磁波のなかで一番エネルギーの高い電磁波は「ガンマ線」と呼ばれます。昔はどのような放射線か正体がわからなかったのですが、物理学の研究によってガンマ線は可視光、赤外線と同じ、あるいは電波と同じ電磁波の一種だということが次第にわかってまいりました。
そして、いまから半世紀ぐらい前に、名古屋大学の早川幸男先生がある計算をされまして、「ガンマ線を使って宇宙をみる研究が可能ではないか」「結構強いガンマ線がわかる可能性がある」ということを指摘されました。これはその当時、直ちには注目されなかったのですが、この半世紀を通して営々と、着実に進展してきました。つい数週間前には、GLAST(Gamma-ray Large Area Space Telescope)という名前のガンマ線観測衛星が打ち上げられ、現在、成功裏に地球の周りを回っています。まもなくガンマ線でみた新しい宇宙の姿を私達にどんどん送ってくれるはずです。
そして、ガンマ線は非常にエネルギーの高い、例えば超新星爆発やブラックホールなど、そのような領域から出てくるということで、一見、星を生み出すような冷たい、エネルギーの低い星間ガス、例えば分子雲のようなガス雲とは関係がないように思われるのですが、実は早川先生は「この分子ガス雲に宇宙線を当てるとガンマ線源になるのだ」ということを指摘されました。これは皆、物理学の知識としては知っていたのですが、それをもって宇宙をみるという発想はなかったのです。
同じ物理の分野でも、ガンマ線をやっている研究者と私どものように電波を使って分子ガス雲、星の研究をしている研究者とは、ほとんど接触がないのです。これは大変大きな問題ですが、宇宙の現象はそんなことにはお構いなしに、実に多岐にわたるエネルギー状態が融合して起きています。
ですから、いま私が一つターゲットとしているのは、学生諸君が若いうちにガンマ線天文学の基盤と電波天文学の基盤の2つを同時に学べる教育のチャンスを作りたいと思っています。この学生諸君が5年後、10年後に、自由自在にエネルギーのバリアを越えて新しい宇宙像の発見、開拓に力を発揮してくれることを期待しながら、若者達にガンマ線と分子ガス雲をつなぐ研究の大切さを語り伝えているきょうこの頃でございます。
皆さん、お聞きいただきましてどうもありがとうございました。