大学院生の就職問題(2016年6月)
2016年6月度のビデオメッセージ
皆さん、こんにちは。今月のメッセージをお伝えしたいと思います。
きょうは大学院の教育について、一言、意見を申し上げたいと思います。私も長い期間、大学院での学生の教育に関わってまいりましたが、振り返ってみますと、いろいろな思いがあります。そのなかでも、特に近年、気になることの一つとして、実は就職活動の問題があります。
ご存じとは思いますが、大学院は前期が2年間で、これが修士課程です。その後、3年間の博士課程があり、通常、5年間をかけて、学位論文、博士の学位記が得られるというシステムです。そして、私の経験に照らしましても、特に最初の修士課程の2年間の影響は大変大きいのです。将来、研究者として自立していく学生、若者のことを考えると、いかに修士課程の2年間で研究に集中し、充実した学習ができるかということは、非常に大事です。
しかし、近年、就職活動によって、2年間しかない修士課程のうち、少なくとも半年以上は大学にあまり来ない、学習に集中できない期間を過ごしてしまう大学院生諸君が少なくないと思われます。これは非常に大きな損失です。一番大事な時期に重要な学習に集中できません。その代わりに、いろいろな会社訪問等を行って、就職活動に全力を集中してしまうということが、しばしば見受けられます。これは、研究者を育てるという意味で、我が国の一つの大きな目標だと思いますけれども、それを大きく脅かしている存在なのではないかという気がします。
もちろん大学院生のうち、かなりの学生が最終的に研究者を目指さず、就職を選ぶということの背景には、学位を取った後、ちゃんと就職できるのか、あるいは研究者としてやっていけるのかということに対する強い危惧があるのだと思います。この背後には、一つには国としての施策の問題、そして予算配分の問題が大きくあるのではないかと思います。
特にきょうは、就職活動が研究者育成に与える非常に深刻な悪影響を指摘して、今月のメッセージとさせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。