『スーパー望遠鏡「ALMA」が見た宇宙』(2016年10月)
2016年10月度のビデオメッセージ
皆さん、こんにちは。今月のメッセージをお伝えしたいと思います。
今月は新しくできた本のご紹介をしようと思います。こちらの『スーパー望遠鏡「アルマ」が見た宇宙』という本です。
ALMA望遠鏡が南米のチリに姿を現し、いまどんどん観測を続けています。全部で60台を超えるパラボラアンテナを、いわば結合して、非常に高い空間分解能、感度を達成するという装置です。このALMA望遠鏡は、いま電波の世界で本当に面白いデータを次々と発表しています。そのような時代に入ってきています。そして、この本はALMA望遠鏡の最初の3年ないし4年の研究成果を、私も含めて全部で5人の研究者が、それぞれの専門分野を中心に皆さんに知っていただこうということで作った本です。もし機会がありましたら、ぜひ手に取って眺めていただければと思います。
少し中身をご紹介します。最初のページは、このような感じです。例えばALMAの審査会の記念写真や、ここに私も写っていますが、ALMAの写真など、結構、たくさんカラーのイメージが収録されています。多少、専門的な内容も含まれているかもしれませんが、多くの方々にALMAの成果を感じ取っていただける一冊になったのではないかと思っています。
実はこの本を出す前に、遡ること12年前、2004年に『私たちは暗黒宇宙から生まれた ALMAが解き明かす宇宙の全貌』というタイトルの本を出しています。これは10名ぐらいの研究者のインタビューを中心に構成しておりまして、まだALMA望遠鏡ができるはるか前に、ALMA望遠鏡によって、例えば宇宙誕生の謎、あるいは銀河誕生の謎、さらには生命の起源など、そのような問題に我々はぜひ挑戦したいのだということを、皆さんにお伝えした本です。この本も同じ日本評論社という出版社から出版されております。
実は2004年にこの本を出した際には少し苦労しました。「このような本を出版したい」と提案しますと、いくつかの出版社に「まだ望遠鏡もできていないではないか」「そんな段階で本を出すというのは聞いたこともない」といわれまして、あまり相手にしてもらえませんでした。ただ、日本評論社の編集者の方は理解を示してくださいまして、このような計画について納税者の皆さんにいち早くお伝えして、みんなで理解を深め、期待を膨らませる、そのような本があってもいいのではないかということで、この本が誕生しました。
それから12年経って、ようやく私達がいっていたことが嘘ではなかったという研究成果の報告の第一弾が、今回、出た本ということになっています。この表紙はなかなか面白いイメージです。これは生まれたばかりの星の周りの円盤の写真です。たくさんの筋がみえていますが、この筋が実は非常に大事です。この円盤の中で現在、あるいはこれから惑星がどんどんできていくだろうと想像されています。実は惑星そのものは、ALMAをもってしても直接みることが難しいのですけれども、惑星ができたことによって円盤の中の物質が筋状に減少します。ですから、このような内側の筋のいくつかは、惑星を作ったことによって円盤がえぐられた痕跡を表している可能性が非常に高いと考えられています。
このようにして私達の研究は、地球を含めて、いろいろな惑星が宇宙でどのように誕生しているのかという問題に対して、非常に画期的な新しい成果をもたらしてくれています。もちろんそのような惑星だけではなくて、遠方の銀河に大変巨大なブラックホールが存在している、あるいはフィラメント状のガス雲の衝突によって太陽の数十倍という巨大な星が生まれている、そのようなことも次々とわかってきています。
私も含めて、私達のグループからどんどん観測提案を出して、ALMA望遠鏡を使っております。現在、ようやく本当にわくわくする面白いときが到来したのだという雰囲気を、ぜひ一人でも多くの方々と共有できたらいいなと思っている次第です。
どうもありがとうございました。