はるか遠く銀河系で(2015年10月)
2015年10月度のビデオメッセージ
皆さん、こんにちは。今月、10月のメッセージをお伝えしたいと思います。
時が経つのはあっという間ですよね。2015年も1月だったと思ったら、もう10月でございます。
9月は、私も大変忙しくしておりました。一つは学会のシーズンで、日本天文学会、あるいは物理学会等で、私達のグループからいくつかの講演を行いました。また、「名古屋大学星の会」ができてから、ことしでちょうど20年あまりが経過したので、その記念として南米、チリへのツアーを行いました。20名を超える方々がチリに行って、地震にあったりもしましたけれども、全員、無事に帰ってくることができました。大変貴重な経験だったのではないかと思っております。
そのような9月を過ごしたわけですが、きょうは、遠く銀河系の昔に思いを馳せるお話をしたいと思います。
銀河系ができたのは、おそらくいまから130億年以上前、かなり昔です。ビッグバンで宇宙が始まり、それから数億年ぐらい経った頃、我々の銀河系の、いわば原型になるガスの塊ができました。そこで星ができ、やがて銀河が形成されてきたと考えられています。
我々は最近、太陽系の近くの水素のガス雲を詳しく研究しているのですが、面白いことをみつけました。実はいま2つのガス雲が、方向は違うのですが、円盤になっている銀河の面に落下してきています。2つの雲が毎秒100km近い速度で、ほとんど同時に、しかし全く違う方向から銀河面に衝突している、そのような様子を世界で初めて捉えることができました。
これは決して我々が観測したわけではないのですけれども、現在では、いろいろな観測結果がパブリックに、公にされておりまして、誰でも使うことができます。ただ、そのようなデータが十分に解析されているかというと、決してそうではなく、まだまだ分析されていないデータが多く眠っており、あるきっかけで、そのような場所の一つを詳細に調べていたところ、今回の発見にいたりました。これは、一つの雲が落ちてきますと天の川の面のガスと衝突して穴を開けるのですが、この雲と衝突によって開けられた穴を特定することができたということが決め手です。
しかも、この雲の化学組成が、現在の太陽系の近くのガスの化学組成にどれぐらい近いのかということを調べてみると、実はずいぶん違います。太陽系の周りにあるガスには、鉄や炭素が結構豊富に含まれていますが、この雲そのものは、そのような重たい元素が有意に少ないのです。これが何を意味するのかというと、太陽系の近くで発生した雲ではないということです。はるかに違う領域、おそらく銀河系の外から降りこんできたガスであるということが大変強く示唆されます。
このような過程が一気に2つみつかりました。これはまだ十分探されていませんから、数十、あるいは数百のオーダーで、現在、この時点でも水素のガス雲が降り注いでいる可能性は決して否定できません。そして、100億年以上前の銀河系が形成されていた時代には、もっと夥しい量のガス雲が銀河系めがけて落下し、銀河系の一部として取り込まれてきたということも十分に予想されます。ある意味では、100億年以上前の銀河系形成のときのイベントが現在にまでつながっている、その証拠の一端をみたのではないかと考えられます。これから、ぜひこの方向の研究にも、私達は力を入れていきたいと思っております。
ありがとうございました。