国立大学の重要な機能(2015年9月)

2015年9月度のビデオメッセージ

皆さん、こんにちは。今月のメッセージをお伝えしたいと思います。

私の子供の頃のことを少し思い出してみたいと思います。父はだいぶ本が好きで、ある意味では本の虫でありました。いろいろな本をみつけては買ってきておりまして、かなり家中が本だらけでした。

そして、私も自然に小さい頃からいろいろな本を読むようになり、特に小学校の後半でしょうか、本の楽しみを知って、本がもたらしてくれる世界で、いろいろ遊ぶ日々を過ごしていました。中学校1年生ぐらいのときには、「夏目漱石が面白いのではないか」と思い、一念発起して漱石の本を10冊か十数冊、いろいろ読んで、「なるほど。なかなか面白い世界だな」と感じたことを、いまでも覚えております。ただ、それから1、2年すると、小説、あるいは文学から、だんだん興味がほかに移ってまいりまして、高校生の頃は、社会学的な本や、あるいは政治学的な本などを、いろいろ読んでおりました。

このように振り返ってみますと、やはり小学校の頃から高校にかけて、私が本から得た豊かな世界は大変大事だったと思っております。非常に貴重な経験でした。

そして、最近になって、文部科学省から各国立大学に一つの提案があったようです。あまり詳しいことは私も承知していないのですが、聞くところによると、人文社会系のいろいろ学部を見直し、再編してはどうかという、提案といいますか、リクエストが投げられているようです。

これは多少、心配なところも感じます。もしそのような動きが、一見役に立たないもの、あるいは人間社会においてただちに利益を生み出さないものを、国立大学からどんどん締め出していこうとする動きの一つだとすると、これは大変由々しき問題だと思います。

国立大学の多くは総合大学です。理科系の教育、研究に並んで、日本の伝統文化、文学を学び、あるいは世界の人文社会系のいろいろな教養、伝統を育み、それを若い人に伝えていくべき非常に重要な機能、働きがあると思います。そのようなことの大切さは、やはり大学においてしかなかなか維持できませんし、次の世代に伝えていくこともできないのではないかと思います。国民全体が注意してこの問題を見守っていくべきではないかと思う、この頃でございます。

ありがとうございました。

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