ファースト・スターの形成(2015年5月)

2015年5月度のビデオメッセージ

皆さん、こんにちは。今月のメッセージをお伝えしたいと思います。

いま天文学の分野の最大の関心事の一つに「ファースト・スターの形成」の問題があります。ファースト・スターとは「宇宙で最初の星」という意味です。

ご存じのように、宇宙はだいたい137億年前のビッグバン、あるいはその前のインフレーションによって始まり、100億年を超える進化を遂げて、現在の宇宙に至っていると考えられています。そのなかで、おそらく宇宙が始まって数億年した頃に「宇宙最初の星」は生まれたのではないかと考えられています。

しかし、ファースト・スターは遠くて、なかなかみえません。だいたい130数億光年かなたの1個の星ですから、大変暗く、現在、この時点でも、まだ望遠鏡でファースト・スターは捉えられていません。それでは、どのように研究するかというと「理論」です。理論的には、もちろん水素とヘリウムのガスが原料になると考えられます。そのようなガス雲がダークマターの力によってだんだん集められ、それがやがて自分自身の重力で収縮し、宇宙最初の星ができたということです。

この問題は研究者の間の一つのファッションでもありますので、たくさんの研究者が取り組んでいまして、私もときどきその関係の研究会等に出ていろいろな話を聞くのですが、実はそのような話を聞いていて一つ気にかかることがあります。

遠くの、百何十億光年かなたのことは、近い将来、わずかな点として、小さな光の染みとしてみえてくる可能性はあり得ます。ただし、どのような過程を経て最初の星ができたのかという問題に対して、実際に可能になるであろうことは、我々の、太陽のすぐ近くの星の誕生は非常に詳しく観測することができますので、それを克明に理解し、それを基礎にして宇宙最初の星の形成の仕組みを考える、そのような流れしかあり得ません。

ところが、ファースト・スターの研究会に行きますと、全くといっていいほど、現在の宇宙における星の形成については議論されていません。これは大変偏った、良くない傾向ではないかと考えています。もちろん、そのように考えている研究者の方も少なくはないと思いますが、いかに現在の星形成と宇宙最初の星形成をつなぐのか、そのつなぎ方を見出すことが実は最大のポイントではないかと考えています。

あと10年すると、ファースト・スターの形成について、かなり手がかりが得られてくる可能性はあります。きょう、今月、お話しした私のお話を、ぜひ皆さん覚えておいていただきたいと思います。10年後に何が起きているのか、楽しみに待ちたいと思います。

ありがとうございました。

【キーワード】 天体研究・観測