心を揺さぶる文章(2015年2月)

2015年2月度のビデオメッセージ

皆さん、こんにちは。今月のメッセージをお伝えしたいと思います。

私も大学院生になってから、ずいぶんたくさん英語で天文学、あるいは物理学の論文を読んできましたけれども、正直にいいまして、最近の論文を読んでいますと、少しつまらないのです。似たような論文ばかり、たくさんあります。例えば書き出しの部分とか、「誰が書いても変わりないではないか」というような場合もなくはないという感じです。

対照的なのは、例えば1940年代、あるいは30年代、20年代の論文です。その頃、いまよりもはるかに研究者の数は少なかったわけですが、そのようなパイオニア的な研究者の方々、あるいは天文学者の方々が書いた論文を読みますと、一語一語が心に染み込むような感じがいたします。いまに比べると、まだ宇宙のことがそれほどよくわかっていないわけですが、20世紀の前半には、いってみれば「初めて望遠鏡をある天体に向けて、このような変な特徴をみつけた」というような論文がたくさんあります。また、その頃の論文は英語が明確です。何をいいたいのか、何を伝えようとしているのか、何に心が躍っているのか、そのようなことが本当に手に取るように伝わってくる論文が、論文の総数は少ないのですが、少なくないと思います。そして、そのような論文と比べたときに、いまの論文にはそのようなインパクト、心を揺さぶってくれる味わいが少ないという気がいたします。

これは本についてもいえるのかもしれません。例えばある分野の日本での初めての解説書といったような本が何冊かありますが、ぜひ皆さんも一読されることをお勧めしたいと思います。そのような本の一冊に、元東京天文台、いまの国立天文台で電波天文学を興した畑中武夫先生の著書があります。私は実はお会いしたことはないのですが、49歳という若いお歳で、大変惜しまれながらお亡くなりになられた先生です。この畑中先生が岩波新書に『宇宙と星』という本を書いていらっしゃいまして、とても良い本です。もちろん日本語で書かれていまして、薄い本なのですが、宇宙についての実に簡潔でわかりやすい解説書です。ときどき私も思い出しては手に取ってみるのですが、万人にお勧めできる、大変素晴らしい良書です。

今月のメッセージとさせていただきます。ありがとうございました。

【キーワード】 意見・エピソード