宇宙空間に漂うもの(2013年7月)

2013年7月度のビデオメッセージ

皆さん、こんにちは。今月のメッセージをお伝えしたいと思います。

最近、ある学生に「宇宙には何もないようにみえます。宇宙空間には真空のような空間が広大に広がっていて何もないのでしょうか?」と質問されました。これはなかなか面白い質問ですが、実は宇宙には「何もないところ」はないのです。銀河と銀河、星と星の間の空間をちゃんとみてみると、実は例外なくいろいろなものが漂っています。

例えば代表的なものとして、ビッグバン直後の熱い宇宙が放った「宇宙背景放射」という電磁波が、宇宙空間のありとあらゆる場所を満たしています。一番エネルギーの高い波長1mmぐらいの電磁波が、1cm3当たりだいたい400、500個ぐらい宇宙空間を満たしています。それを全部、足し上げると膨大なエネルギーになります。そのようなものは少なくともどこにでも存在します。

一方、銀河や星、あるいは銀河の集団、銀河団など、そのような天体の近くに行くと、例えば我々の知っている物質としては水素がたくさんあります。水素は宇宙の元素のなかで一番多く、全体の90%を占めていると考えていいわけです。

この水素は、特に電気的に中性な水素を中性水素といいますが、陽子の周りを電子が回っている小さな粒です。1947年頃に、ちょうど第2次世界大戦の終わった後、この小さな粒が波長21cmの電波を出すということがわかり、その数年後の1951年に、中性水素が出す波長21cmの電波が宇宙空間で発見されました。いまから60年あまり前のことです。これは大変大きな発見でした。

そして、この中性水素のガスを観測することによって、例えば私達の天の川は渦巻き状の形をしていて、その渦巻きの腕のなかで太陽のようなお星さまは生まれているということが、ここ半世紀の研究で非常によくわかってきました。この中性水素の波長21cmの電波は、大変弱い電波なのですけれども、例えば1万光年の距離を全部足し上げますと膨大な数の水素があり、そのために非常に強い強度で観測が可能になっています。

いま我々も、この中性水素を使った観測研究をしていますが、ごく最近になって、実は中性水素の量は、いままで天文学者が考えていたより3倍程度多いのではないかということがわかってきました。これは、ついここ数週間のことです。これは「プランク」という宇宙背景放射を観測する衛星のもたらした、とても精度の高い赤外線、サブミリ波の観測結果と、21cmの電波の情報を比較することでわかってきました。これがこれからどのようなインパクトを与えるのか、大変楽しみな研究の課題が、突然、私達の眼の前に飛び込んできました。また追って、この話の続報をお伝えしたいと思います。

どうもありがとうございました。

【キーワード】 研究・観測