一年を振り返って:星形成の歴史に大きな一歩(2013年12月)
2013年12月度のビデオメッセージ
皆さん、こんにちは。ことし最後のメッセージをお送りしたいと思います。
この一年を振り返ってみますと、私は大変研究に忙しくしており、いくつかかなり大事なことがわかってまいりました。研究者として大変充実した一年であったと思います。そのうち一つのトピックスをご紹介したいと思います。
天文学では、ここ数十年、半世紀近くにわたって「星はどのように生まれるのか?」という研究が進められてきまして、太陽と同程度の重さを持った星がどのようにして生まれるのかということに関しては、かなり整理され、よくわかってまいりました。ただ、特にこの10年、「非常に巨大な星はどのように形成されるのか?」という問題は、大きな謎だと考えられていました。例えば宇宙には、私達の銀河系にも、太陽の100倍の質量を持っている星が1個や2個ではなく、数十個、あるいは数百個というオーダーで存在しているようです。問題は、このような太陽の100倍という大変巨大な星がどのように形成されるのかということです。
かいつまんでいいますと、星というのは、星間ガス、薄い水素のガスを集めて濃くなったものです。もちろん太陽もそうやってできました。ところが、例えば太陽の数十倍の重さの星を作って、それをさらに100倍の太陽質量まで成長させていくことは非常に難しいのです。何が難しいかといいますと、少しでも重くなった星は、実は太陽の1万倍の明るさで輝いてしまいます。太陽の10倍、20倍の重さの星は、太陽の1万倍以上の明るさで光を出し、この光がガスを集めることを阻止します。光にも圧力がありますので、ガスをさらに積もらせて星に組み込もうとすると、光の圧力によって、そのガスが吹き飛ばされてしまいます。それによって、かなり質量の低い段階で成長が止まってしまうという困難なのです。
しかし、いろいろな観測結果を眺め、さらに新しい観測を積み重ねていった結果、この困難を回復する道がみつかりました。それは、濃い水素の分子ガス雲同士が、強烈に、例えば毎秒20km、30kmという超音速で衝突したところで、相当数の質量の大きな星が群れをなして形成されている、そのような現場を全部で4つみつけることができました。銀河系で、そのようなスタディが可能な領域は、実はその4つに尽きています。その4つすべてについて、同じように2つの速度の違う雲が衝突していることを発見することができました。これは星の形成の歴史のなかでも、大変大きな一歩を刻むことになったのではないかという気がしています。評価は天文学会の方々に任せるべきでありますけれども、来年、あるいは再来年には、このような考え方が世界的に認知されていくのではないかと予想しております。
どうもありがとうございました。